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川喜田研●文・撮影 text&photo by Ken Kawakita
第50号(2006年8月8日)
【F1】ホンダ、39年ぶりの勝利!──ハンガリーGP

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 いったい誰が、こんな結果を想像していただろう? 第3期ホンダF1の初勝利で歓喜の渦に包まれる表彰台の下で、僕自身もちょっとウルウル状態になりながら、アタマの中をこの週末に起きた様々な出来事が一気に駆け巡った……。

 それにしても、本当に奇妙な週末だった。いつもなら気温40度、路面温度は50度オーバーも珍しくない8月のハンガロリンク。ブタペスト郊外にある、グネグネと曲がりくねった、この大きなゴーカートコースのようなサーキットは追い抜きが極めて難しいコースとして知られ、たいていの場合、うだる様な暑さの中で退屈なレースを見せられるというパターンが一般的だ。実際、1週間前のブダペストは最高気温42度という強烈な暑さを記録しており、同じく気温の高いコンディションでのレースとなったインディアナポリス、マニ−クールの連戦に続き「フェラーリ+ブリヂストンの優位」を誰もが予想していた。

 ところが、それから僅か数日の間に天候は一変、分厚い雲に覆われたブダペストは最高気温が20度前後までしか上がらず、雨が降ったり止んだりの不安定な空模様。毎年このサーキットに通い続けているF1関係者のほとんどが「こんなハンガリーGPは初めてだ!」と首をかしげていた。しかも、金曜日にフリー走行ではポイントリーダーのアロンソがロベルト・ドーンボスの走行を故意に妨害し、さらに黄旗を無視して他のマシンを追い越したとして「予選各セッションで2秒加算」という、異例とも言える重いペナルティを受けることになり、パドックはさらに混乱。

 パドックから「故意にシューマッハを後押しする意図をもった、不公平な裁定」という非難の声が挙がったかと思うと、翌日、今度はそのシューマッハが赤旗無視の追い抜きでアロンソと同様のペナルティを受けることになり、その影響であろうことか、タイトルを争うふたりは、シューマッハは11番グリッド、アロンソは15番グリッドという後方からのスタートを強いられることになってしまう。

 ちなみに、最後の最後で「主役の座」を射止めたバトンもフリー走行でエンジンブローを喫して、エンジン交換で10番手降格の14番グリッド! もう一度繰り返すがハンガロリンクは「抜きにくい」ことで知られるサーキット。言い換えれば予選が決定的に大きな意味を持つこのサーキットで、彼ら3人はとてつもなく大きなハンディキャップを背負いながら、レースを戦わざるを得ない、はずだった。

 そして日曜日、予想以上に悪化して、ついにウエットコンディションとなった決勝レースがこうした状況をさらに複雑に変えてしまうことになる。スタート時点で雨は一旦あがっていたものの、空には依然として雲がたちこめ、いつまた降り出すかわからない微妙な状態。予想外の低温に雨という組み合わせはタイヤを巡る条件もまた一変させてしまう。

 スタート直後から驚異的なペースで集団を掻き分け、瞬く間にトップグループに追いついたのはアロンソ! 一方のシューマッハはライバルより前のグリッドからスタートしたにも関わらず、そのペースは今ひとつ。予選2番手に着けたチームメイトのフェリペ・マッサも今回ばかりは雨で濡れた路面に翻弄され、シューマッハの援護どころではない……。ポールシッターのライコネンがリウッツィのトロロッソに追突して大破するなど、コースのそこかしこでクラッシュし、スピンするマシンが続出するなか、快調なペースでトップに立ったのはアロンソ! 苦しい戦いを強いられるシューマッハとの明暗がこれで、ハッキリと別れたかのように見えた。

 ところが! そのアロンソが最後のピットストップでドライタイヤに交換した直後、マシンがフラフラとした動きを見せ始め、右リヤタイヤのロックナットが緩んでコースアウト、そしてリタイア。路面が乾き始める中、インターミディタイヤでペースが上がり始めたシューマッハが再び息を吹き返す! たとえ優勝することができなくても、アロンソがリタイアでノーポイントなら、ここでシューマッハが得たポイントは全てタイトル争いに向けた大きなステップとなる! しかし、ここでシューマッハは信じられないほど大きなミスを犯す! レース終盤、路面が完全に乾き、ライバルたちが揃ってドライタイヤに交換するなか、シューマッハは決してピットに戻ろうとせず、雨用のインターミディエイトタイヤでコースに残り続けてしまったのだ!

 ラスト15周! 難しいコンディションで着実にポジションを上げ続けたホンダのバトンがついにトップに立ち、2番手を死守しようとボロボロのタイヤで走り続けるシューマッハにマクラーレンのペドロ・デ・ラロサとBMWのハイドフェルドが次々と襲い掛かる! 無謀ともいえる強引なブロックで抵抗するシューマッハだが、もはやポジションを守れる力はなく、最後はハイドフェルドに接触してサスペンションを破損! 力なくピットに戻ってマシンを止めたその姿は、狂ったように刀を振り回した挙句、放心状態に陥った「落ち武者」のようだった。どんなに小さなチャンスでも確実に拾ってきたあのシューマッハに一体何が起こったのか? あんなに惨めな姿のシューマッハを見るのは初めてのことだ……。

 こうして、荒れ模様という言葉だけではとても表現しきれない「奇妙なレース」は終わり、ジェンソン・バトンのホンダが大歓声に迎えられて、トップでチェッカーフラッグを受けた。参戦から7年目でようやく訪れた「初優勝」の瞬間。エンジンサプライヤーとしては1992年以来、ホンダF1チームとしては実に1967年以来の優勝! 

 確かに「不思議な週末」がもたらした勝利ではあったが、この難しいレースの中で「幸運」を自分たちのもとにガッチリと手繰り寄せるだけの「強さ」をこの週末のホンダは見せてくれたと思う。気がつけば、ハンガロリンクの上空には青空が広がり始め、表彰台でバトンが振りまくシャンパンの泡が、キラキラと光って見える。F1サーキットで初めて聞く君が代と、それを見つめるホンダスタッフの本当に嬉しそうな表情を見ていると、こちらもまたウルウルとしてしまったのだ。

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