Special Contents MOTORSPORTS
川喜田研●文 text by Ken Kawakita
桜井淳雄●撮影 photo by Atsuo Sakurai(BOOZY.CO)
第49号(2006年7月21日)
赤い皇帝の追撃〜フランスGP

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 スポーツでは時に“風向き”が結果に大きな影響を及ぼすことがある。試合中に突然、風向きが変わることで俄かに形勢が逆転……。攻守相入れ替わるという展開である。もちろん、F1のようなモータースポーツも風の影響を受ける部分はあって、それはウイングの空力セッティングやストレートでのギヤ比の設定などに関わってくるのだが、他のスポーツにおける「風」と同じぐらい、ゲームの基礎になる部分で全体的な影響を与えるのが「タイヤと路面温度」の問題だ。インディアナポリスに続いて、フェラーリのミハエル・シューマッハが2連勝を飾った先週のフランスGPは、そんな「風」の変化を象徴するようなレースだった。

 それまで「ルノー+アロンソ」の組み合わせに全く歯が立たなかったフェラーリがアメリカGPで突如として優位に立ったとき、僕も含めた関係者の多くはそれが1年前に起きたミシュランタイヤの欠陥事件やインディアナポリスという独特なサーキットの性格によるものだと思っていた。昨年、タイヤの信頼性不足から決勝レースのボイコットという前代未聞のトラブルを招いてしまったミシュランとすれば、今年のアメリカGPで同様の失態を繰り返すことは絶対にゆるされず、結果、タイヤのデザインもある程度大きな安全マージンを取った「コンサバ」なものにならざるを得ないはず……。しかも、インディアナポリスはこれまでもフェラーリ+ブリヂストン(以下BS)が得意としてきたサーキットだ「ここで1戦だけ形勢が逆転したとしても驚くには値しないだろう……」と、まぁ、そういう推論にたどり着いたワケだ。

 だが、土曜日、日曜日の路面温度が50度を超えた灼熱のマニ・クールで「フェラーリ+BS」のコンビネーションが見せたパフォーマンスは、インディアナポリスの結果がそうした単なる一過性のものではないことをハッキリと証明していた。どのチームにとってもタイヤの耐久性が大きな課題となっていたこのレースで、シューマッハはあえてソフトコンパウンドを選ぶというリスクを犯しながら、予選、決勝レースともに安定した速さを終始キープ。フェラーリだけではない、今回、ラルフ・シューマッハが4位入賞を果たしたトヨタなど、他のBSユーザーの走りを見てもマニ−クールでのBS勢の優位は明らかで、今年のBSタイヤがこうした高い路面温度の中でミシュランに対して一定のアドバンテージを持っていることを感じさせた。

 開幕時はBSユーザーが低い路面温度でのタイヤの「温まりの悪さ」に苦しみ、ミシュラン勢の優位を許すシーンが目立ったのだが、夏のヨーロッパラウンドではその傾向が逆転、ミシュラン勢はタイヤのオーバーヒートへの対応に神経質にならざるを得ず、BSタイヤがより安定した形で本来の性能を発揮できる条件に変わってきた。ほんの数年前まではむしろ「暑さに強いミシュラン」対「暑さに弱いBS」という一般的なイメージだったことを考えると、激しいタイヤ開発競争の結果、両者のキャラクターが入れ替わってしまったのは面白いが、ともかく、真夏の到来と共にラップタイムに根本的な影響を与える要素である「タイヤ」を取り巻く情勢が逆転したことは、F1にとって大きな「風向きの変化」ということができるだろう。

 次のドイツ、ハンガリー連戦、そして8月中旬のトルコまで今回のフランスGP同様、高い気温、路面温度というコンディションが続くことを考えると、この「風向きの変化」が一気にアロンソに傾いていたシーズンの流れを(一時的にでも)止めてくれる可能性は少なくない。本来ならルノー、ミシュランにとって絶対に負けられない「地元」のフランスGPでフェラーリが完璧な勝利を挙げられたことは、この後、夏のヨーロッパラウンド3戦への興味を繋ぐ意味で、大いに勇気付けられる結果だし、誰よりもそれに手応えを感じているは他ならぬミハエル・シューマッハであることは間違いない。ただし、そうした「逆風」の中でもなお2位に入り、ポイント争いにおけるダメージをキッチリと最小限に抑えたアロンソの戦いぶりは「王者の風格」を感じさせるものだった。第11戦を終えてトップのアロンソとシューマッハの差は17点! このリードを背負っての2位はシーズン終盤に近づくにつれて「勝利」に近い意味を持ってくる……。

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