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川喜田研●文・撮影 text&photo by Ken Kawakita
第47号(2006年6月8日)
【F1】2008年以降のF1の行方〜「GPMA」vs「FOM&FIA」

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 F1グランプリという巨大ビジネスの「仕組み」を理解するのに最適な入門書が出た。一昨年までホンダの第3期F1活動の中心となるHRD(ホンダ・レーシング・デベロップメント)社の初代社長として活躍し、昨年ホンダを退職された田中詔一氏の「F1ビジネス」だ。

 自ら「レースの素人」を公言する田中さんは1966年のホンダ入社以来、一貫して海外営業畑を歩んできたまさに「ニッポンの企業戦士」。入社早々、広いアフリカの約半分(!)にあたる25カ国を営業で回ったり、ベトナム戦争真っ只中のサイゴンでスーパーカブを売りまくったり、果てはアマゾンの奥地にブラジル初のオートバイ現地生産工場を立ち上げるなど、その武勇伝は数知れず。英仏ポルトガル語(多分その他も……)を巧みに操る驚異的なコミュニケーション能力を活かして世界各国の「商売人」と切った張ったを演じてきた、筋金入りの国際派ビジネスマンなのである。

 ただし、創業者の本田宗一郎以来、会社の「顔」は常に技術系の人材というのがホンダの伝統。ましてや、そんな社風のシンボルとも言うべきF1関連の現地法人社長に、技術系社員でもなく「レースは素人」の田中さんがなぜ選ばれたのか? その答えは今のF1が国際的な人気を集めるスポーツイベントや最先端の技術競争の場であると同時に推定で年間30億ドル(約3200億円)ものお金が動く巨大ビジネスになっており、そうした世界でヨーロッパ人たちと対等に渡り合える「交渉力」のある人物が求められていたからに違いない。

 高い国際性と同時に一本筋の通った、決して外国人に媚びる事のないその姿勢は「タフネゴシエーター」としてF1の世界を牛耳る帝王、バーニー・エクレストンにも一目置かれる存在であり、とくにHRD在任最後の数年は自動車メーカーの連合体である「GPMA」(グランプリ・マニュファクチャラーズ・アソシエーション)のキーパーソンとして活躍。2008年以降のF1グランプリ運営を巡る、自動車メーカー対エクレストン&FIA(国際自動車連盟)の熾烈な駆け引きの真っ只中で戦ってきた。

 そんな田中さんが退職後の新たな第一歩として出版したこの「F1ビジネス」は、今や複雑な巨大スポーツエンタテイメント産業となったF1の世界を、インサイダーだからこそ知りえる具体的な情報を交え、わかりやすく紹介してくれた初めての本だ。筆者を含め「F1ジャーナリスト」を自称しているプロにとっても文字通り「目からうろこ」の発見が多く、かつ奥が深いにも関わらず、これまでF1にまるで興味の無かった人でも十分に楽しめる内容になっているところが凄い。

 サッカーのワールドカップやオリンピックの例を挙げるまでも無く、国際的な巨大スポーツイベントは常に巨大で複雑なビジネスの世界と表裏一体になっていて、その裏と表が微妙な形で影響を与え合うことになる。もちろん「表」だけを見て楽しむのも手だけれど、少し舞台裏がわかると「表」の見え方が変わってくることも少なくない。その意味でこの本はF1だけでなく、巨大化した国際スポーツビジネスの一例を知るという意味でも格好の入り口になるのではないかと思う。

 ちなみに、田中さんが心血を注いだ「自動車メーカー対バーニー+FIA」の対決は当初自動車メーカー側にいたフェラーリ(フィアット)の裏切りに続いて、ウイリアムズ、レッドブル&トロロッソ、MF1、スーパーアグリF1が「体制側」につき、対する自動車メーカー側はジリジリと劣勢に立たされている状況。双方が妥協を重ねた結果、5月に入って全メーカーがエクレストンとの間でF1の商業権に関する「2008年版コンコルド協定」の覚書に署名し、6月中をめどにした「技術レギュレーション」に関する交渉が大詰めを迎えようとしている状況。

 この技術レギュレーションに関する議論でも、自動車メーカー間の意見の相違が表面化しはじめ、「F1は技術面でも自動車レースの頂点であるべき」と過度な規制に反対する“武闘派”のホンダを、規制強化によるコスト削減を重視するルノーのフラビオ・ブリアトーレ(写真)が「技術、技術としつこく騒いでいる連中はここ何年かF1で勝ったこともない!」と過激なセリフで挑発するなど、もはやメーカー対バーニーとか、メーカー対FIAといった単純な構図では割り切れないグチャグチャの状態になりつつある。

 2008年以降のF1がどこに向かうのか? F1は誰のものなのか? そして僕たちファンが本当に望んでいるF1の姿とは……? 定年退職した田中さんの第二の人生「デビュー作」はそんな問いかけに対して、多くのヒントを僕たちに与えてくれるのではないだろうか。

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