小内慎司●撮影 photo by Shinji Kouchi
第50号(2008年1月21日)完璧な試合内容で流経大柏が初優勝〜全国高校サッカー選手権大会
第86回全国高校サッカー選手権大会は、流通経済大柏(以下、流経大柏)の初優勝で幕を閉じた。流経大柏は高円宮杯に続く二冠制覇。優勝候補筆頭にふさわしい強さを見せ付けた。
今大会は序盤から、星稜、鹿児島実など、強豪校が次々に姿を消し、波乱が目立っていた。しかし、決勝戦だけを見れば、極めて順当な勝ち上がり。決勝で対戦した流経大柏と藤枝東は、頭ひとつ抜けた存在だった。そんな両校が対戦したにもかかわらず、藤枝東が手も足も出なかったのだから、流経大柏の強さは際立っていたと言える。その決勝は、流経大柏の本田裕一郎監督が「今日は出来すぎ」と言うほど、完璧な試合内容だった。
個々の技術が優れているのはもちろん、オフ・ザ・ボールでの動きの質も高かった。これこそが、華麗なパスワークを実現する要因である。加えて、守備に回っても前線から激しくプレスをかけ、相手には落ち着いてパスをつなぐ余裕を与えない。流経大柏のサッカーは、高校レベルとしてはかなり完成度が高く、洗練されていた。
準々決勝で対戦した東福岡のように、守備を固めれば善戦は可能だった。しかし、まともに組み合えば、どんなことになるかは、準決勝、決勝が示していた。津工にしても、藤枝東にしても、パスをつないで攻撃を組み立てるスタイルだっただけに、激しいプレスの餌食となった。
あえて問題点を挙げるとすれば、高い位置からのプレスに頼るあまり、DFラインの押し上げが少々強引で、安定感に欠けることだ。準決勝、決勝でも入れ替わるように裏を取られるシーンが、何度かあった。相手が無理にパスをつなごうとして、流経大柏のプレスを勢いづかせるのではなく、立ち上がりは意識的にDFラインの裏へロングボールを蹴るなどして、守備ブロックを前後に拡散させていたら、また試合展開は変わったものになっていたかもしれない。
しかし、高校レベルでそこまで要求するのは、なかなか難しい。それほど流経大柏は攻守両面において、高いレベルにあったということだ。現在の日本サッカー界で標語のように唱えられている、“人とボールが動くサッカー”をまさに体現していた。
だが、突出した力を持っていた優勝校を除けば、大会全体のレベルはさほど高かったわけではない。しっかりとした守備ブロックを作れる2チームが、がっぷり四つに組むと、続けて2本とパスがつながらなくなる。1年前の当コラム(バックナンバー第31号参照)でも書いたが、なかなか互いの守備を破れない、膠着した試合が目立っていたことも事実である。
それを組織的な守備のレベルが上がっている結果だと、ポジティブにとらえることは可能だろう。それも一面ではある。しかし、褒めているだけでは、話は前に進まない。
守備力が上がっているのは確かだが、多くのチームが、それを突破できるだけの技術、アイディアに欠けていた点は否めない。流経大柏にはあった優れた技術やオフ・ザ・ボールの動きなどが、決定的に不足している高校は多かった。
流経大柏にしても、何人もの選手がJリーグに進むようなスター軍団だったわけではない。だからこそ、そんな選手たちがひたすら技術と判断を磨くことで、これだけのサッカーを実現できたことに大きな意味がある。
その年によって、選手の能力には差があり、チーム力が上下するのは仕方がない。ただ、そのなかで流経大柏が見せたような意図のあるオフ・ザ・ボールの動きなど、習慣化によって補える部分がスタンダードになることで、確実に日本サッカー全体のレベルはもう一段階上がるはず。と同時に、“日本サッカーの色”が、さらに明瞭になってくるはずである。
ここ数年の高校選手権に見られる、大まかな流れは、今年も変わってはいなかった。底辺の拡大と上昇。そして、もう一方で起きている、トップレベルの停滞。多くの高校に優勝のチャンスがある、群雄割拠の時代になっている。
それだけに、流経大柏が見せた質の高いサッカーが一過性のもので終わるのではなく、今後のスタンダードとなっていくことに期待したい。高校サッカーに期待すべきは、偶発のスターを生むことではなく、より質の高いスタンダードを作り上げていくことだと思う。







