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杉山茂樹●取材・文 text by Shigeki Sugiyama

第45号(2007年9月18日)オシムジャパン、スイス代表に勝利〜今後の「伸びシロ」

前半を終了して0−2。その半ば過ぎから、少しずつ盛り返した日本代表は後半、一気に爆発。4−3のスコアで、強豪スイスに痛快な逆転勝ちを収めた。「よくやった、万歳!」と叫びたい気持ちは確かにある。ジーコ時代、トルシエ時代はもとより、過去を振り返っても、味わえなかった類の勝利である。

とはいえ、結果を額面通りに受け取るのは危険。大喜びは禁物との思いは、それ以上に強い。国際親善試合には「前半の戦いを見よ」の常識があることを知らなければならない。90分の中で、本当にキチンと戦うのは前半のみ。後半はフレンドリーマッチと割り切って、積極的にメンバーをテストする。とりわけ欧州の代表チームには、その傾向が強い。

そうした視点でこの試合を見ると、4−3の勝利には、割り引いて考える必要が生まれる。0−2という前半のスコアに、両者の力関係は現われていると見るべきだろう。

実際スイスは、後半の頭から、交替メンバーをふたり投入した。 後半27分、日本が初めてメンバー交替を行なった時、スイスは3人の交替を済ませていた。片や本気、片やテスト。結果を分けたのは、この試合に臨む姿勢だった。

試合後の記者会見で、スイスのクーン監督は「我々の本番はユーロ2008。来年の春までに、20人フィールドプレイヤーを選び出すことが、私に与えられた仕事だ」と語った。日本戦もその一環だというわけだ。敗戦にも、余力を感じずにはいられない。

いっぽう日本の本番は、W杯予選であり、3年後のW杯本大会だ。スイスより時間はたっぷり用意されている。しかし、その割に余力は感じない。同様にオシム采配にも、余裕が見られない。いまだからこそできるトライは、無に等しかった。

スイス戦の4−3は、固定メンバーを貫き、結果を欲しがる戦いをした末に収めた結果だと言える。マックス値を見てしまった気さえする。松井、稲本が加わり、それなりにプレイを見せたわけだ。いま、すぐにでも本番を迎えられそうな臨戦態勢にある。これに高原が加われば、完成型は見えたも同然。それこそ、来年のユーロに出場させて欲しいくらいだ。

逆に言えば、大きな伸びシロは、期待できにくそうな状況にある。現在のスタメンが向こう3年間、ピークを維持できるのか。下の世代の選手が順調に成長して、適宜マイナーチェンジは繰り返されるのか。オシム・マジックは、もはや底を突いたのか否か。

さらなるステップアップ、スケールアップを図るには、固定メンバー化した代表を、一度、壊すべきではないかと考える。

まずGKの川口だ。ずっと好調を維持しているが、出ずっぱりは良くない。楢崎、川島及びその他の候補にも、チャンスは与えられなければいけない。

次に、サイドバックの駒野と加地。この両者もほぼ出ずっぱりだが、 そこまでスーパーなプレイを毎試合見せているとは思えない。他の選手のプレイも見たいと思うのは僕だけではないはずだ。そのバックアップ選手が、サイドバックが本職ではない今野であることも解せない点だ。

そしてフルタイムの皆勤を続ける鈴木啓太。阿部、今野はなぜ彼のポジションでテストされないのか。不思議だ。鈴木啓太が圧倒的な技量の持ち主なら納得できるが、スイス戦でも、オーストリア戦でも不安定な、疑問符を付けたくなるプレイを露呈させている。

スイス戦の前日に行なわれた紅白戦では、鈴木啓太はサブ組に回ってプレイした。そのポジションには遠藤が一列下がる形で収まり、遠藤のポジションには、横浜で好調なプレイを披露している山瀬が起用された。前回のコラムの内容が、オシム監督に届いたのかと期待したが、テストは紅白戦止まり。翌日のピッチには従来型が並んだ。

遠藤を一列下げたポジションで起用すれば、選択肢は広がる。中盤系というより、アタッカーに近い選手をそこに投入することができる。1トップ(4−2−3−1)のバランスはその方が整うはずだ。

今回、松井の加入で、攻撃は活性化されたが、彼のような選手がもうひとりふたりいれば、選択肢はさらに広がる。攻撃的に臨みたい場合は遠藤を下げ、守備的にいきたい場合は、遠藤を上げる。それがスムーズに行なわれれば、メンバー交替もバラエティになる。

オシム采配に、アジアカップを境にすっかり影を潜めてしまった大胆さの復活を願うばかりだ。アジアカップの4位は、それが災いした結果だと僕は見ている。スイス戦前日に行なわれた紅白戦のメンバーで、翌日も戦わなかった理由も、結果が彼の決断を鈍らせたものと考える。スイスに大敗することを恐れたからに違いない。

スイス戦の試合後の記者会見で、オシム監督は「前半、選手は相手をリスペクトしすぎてしまったようだ」と語ったが、それはなによりオシム自身について言えることではないか。その「安全策」を、選手が敏感に感じてしまったが為の前半だったという気がしてならない。

オシム監督が、日本人の「結果社会」、「勝利至上主義」、「勝てば官軍」のメンタリティに染まってしまったのだとすれば、日本の伸びシロは少ない。 彼のハートは、チキンなのか否か。今後はその点に注目してみたい。


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