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河崎三行●文 text by Sangyo Kawasaki
アフロ●撮影 photo by AFLO

第34号(2007年3月20日)なでしこジャパン、ワールドカップ出場権獲得

いやぁ、ヒヤヒヤした。ひとつ間違えれば、大量失点を喫してワールドカップ出場権を逃してもおかしくない試合だった。

3月10日に国立競技場で行なわれた、女子ワールドカップ予選プレイオフ第1戦を0-2で落としたメキシコは、3-3-1-3というなり振りかまわぬ攻撃的布陣で挑んできた。前線はただ3枚を並べたわけではない。一方のサイドが時折中に絞ることでスペースを作り、そこに後ろから中盤の選手、ゴンザレスやサウセドがオーバーラップを仕掛けて鋭いクロスを上げてくる。トップ下に配されたレイバも効いていた。前線と中盤のリンク役となって攻撃を組み立てるだけでなく、自分のマーク役に付いたボランチの酒井を引きずり出して日本のDFラインとの間を間延びさせる役割を果たしていた。そこにメキシコの選手がどんどん入ってきて、フリーの状態でボールを受けるというわけだ。

試合前のスタメン表から、日本はメキシコが3トップでくるかもしれないということは予測していたという。しかしここまで変幻自在な攻め方だとは思いもしなかったようだ。センターバックの磯崎も岩清水も、試合後に「前半は全然相手を捕まえきれなかった」と反省しきりだった。

メキシコはキックオフからどんどん仕掛けてくる。日本はマーキングの相手を定めきれず、防戦一方。そしてとうとう堪えきれず、8分にメキシコのエース・ドミンゲスがワンツーで抜け出して先制点を挙げた、かに見えた。しかしこれはオフサイド。非常に微妙な判定で、旗が上がっていなくてもおかしくない場面だった。あのゴールが認められていたら、せきを切ったようなメキシコのゴールラッシュとなっていたかもしれない。

が、先制点を挙げたのは日本。宇津木が左サイドから蹴ったFKを、荒川が逆サイドで受けるやすぐさま右足を振り抜き、メキシコのゴールネットを揺らす。この時点で、メキシコは3点取っても勝てないことになった。これは勝負あったかな、と思ったその直後、今度は先制点をアシストした宇津木がペナルティエリア内で相手を倒し、PKを与えてしまう。これが決まって1-1の同点。メキシコはこれでまた息を吹き返し、日本陣内に攻め込む。日本DF陣は相変わらず混乱したままで、自由にボールを回されてしまう。そして29分。ストッパーのゴメスががら空きの右サイドを上がってパスを受け、前線にロングクロス。これにドミンゲスが合わせて2-1とした。あと2点。残り時間はまだ充分ある。が、チャンスはできるものの、それが得点に結びつかず、結局このまま前半は終了。

ハーフタイム、大橋監督はまず選手のパニック状態を解こうとした。
「落ち着け。まず自分が誰を抑えるのか、それを正確に把握しろ」
そしてボランチを2枚とするべく、FW大野に代わって宮本を投入。酒井が引き出されたスペースを埋め、前線へのくさびのパスをケアするためだ。

宮本は、メキシコが自分にあまりプレッシャーをかけてこないとみるや、どんどん前線に上がってシュートやスルーパスを狙う。メキシコは彼女を無視するわけにはいかないから、攻撃に割ける人数が少なくなるというわけだ。

また、メキシコは前半に飛ばし過ぎた影響からか、後半はパッタリと足が止まってしまった。相変わらず試合は支配しているものの、前半のような決定的チャンスはめっきり少なくなった。しかしまだ2点足りない。クェジャール監督は、次の手を打った。15歳のFWコラールを入れて、4トップにしたのだ。が、これは日本にとっては好都合だった。前線の選手の間隔が狭まって、かえって自在なポジションチェンジができにくくなってしまったのだ。日本DF陣はふたりのボランチと連動しながらメキシコのゴール前の組み立てを許さない。こうなると焦るのはメキシコだ。先を急いでロングボールばかりを蹴るようになると、ここで勝負あり。日本は落ち着いて時間を稼ぎ、1-2のまま試合は終了した。

ワールドカップ出場権は勝ち取った。しかしこのメキシコ戦で、チームが一度パニック状態に陥ると自力ではなかなか立て直せない一面を露出してしまった。ベテランが多いチームがこれではいただけない。9月に中国で開催されるワールドカップでは、間違いなくメキシコより強い相手と当たる。それまでにもっと柔軟性を持って試合運びができるように鍛え直すことが急務ではないだろうか。

最後に、第2戦での個々の選手の評価も記しておきたい。Aが最高でCが普通、Eまでの5段階評価である。

  • 福元美穂→A:敵地の異様な雰囲気の中でも安定。今回は飛び出しのタイミングも的確で、持ち前のキック力は陣地の挽回を手助けした。
  • 岩清水 梓→C:前半はちょっとやられすぎ。
  • 磯崎浩美→C:前半のパニック時、彼女にこそペース挽回の舵取りをしてほしかった。
  • 近賀ゆかり→C:相手に押し込まれた時間が長かったこともあって、持ち前のサイドアタックが見られず。
  • 宇津木瑠美→B:第1戦に続き、先制点をアシスト。しかしその直後に与えたPKで殊勲も相殺。本人によれば「あれ(ペナルティーエリアで相手FWに後ろからチャージして倒したとみなされた)は触っていない。でもアウェーってことの意識が足りなかったかな」。
  • 酒井與恵→C:前半はレイバに翻弄された。
  • 宮間あや→C:同じく相手を捕まえきれず。今回もやはり、フリーキッカーとして落ちる軌道のボールが蹴れたらなあ、と思わされたシーンが一度。
  • 柳田美幸→C:彼女にしては珍しく、ボールを奪われるシーンが数度。
  • 澤 穂希→C:徹底マークで仕事をさせてもらえず。
  • 大野 忍→C:前半だけで退く。メキシコとは相性が悪かったか。
  • 荒川恵理子→A:あの得点でどれほど日本が楽になったか。前線で孤立したが、精力的にボールを追い掛け回すだけでも相手にとっては相当なプレッシャーとなったはず。
  • 宮本ともみ→B:後半から入って酒井とダブルボランチを形成。バタバタしていたチームを落ち着かせた。ただ、アテネ五輪時の攻撃の勘を取り戻したいところ。
  • 矢野喬子→B:長く代表の左サイドバックを務めてきた経験はだてではない。守備固めとして投入され、見事にその役目を果たした。
  • 大谷未央→B:わずかなプレイ時間だったが、前線から猟犬のように相手ボールをチェイシング。持ち味を充分発揮した。

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