Special Contents J FOOTBALL
浅田真樹●取材・文 text by Masaki Asada
アフロ●写真 photo by AFLO
第24号(2006年7月20日)
ワールドカップの「影の主役」〜公式試合球

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 イタリアの優勝で幕を閉じたワールドカップ・ドイツ大会。イタリアの優勝、という結果が何とも示唆的ではあるが、非常にゴールの少ない大会として記憶されることになった。要するに、ロースコアの試合が多かったわけである。

 ただ、少ないながらも、今大会で生まれたゴールの一つひとつを振り返ってみると、かなりはっきりとした傾向が見て取れる。しかもそこには、今大会で採用された公式球、「+(プラス)チームガイスト」が大きく影響しているのではないか、と思われるシーンがいくつも見られたのである。

 まずひとつに、今大会ではミドルシュートからのゴールが多かったことが挙げられる。シュートの瞬間にしっかりとインパクトすれば、従来のボール以上にスピードとパワーが加わりやすく、表面の凹凸を極力排したボールは空気抵抗を受けにくくなっている(結果、シュートが無回転になりやすい)印象を受けた。

 象徴的だったのは、一次リーグ・イラン戦で見せたデコ(ポルトガル)のゴール。体勢が崩れ、腰が後ろに落ちているにもかかわらず、ペナルティエリ アの外から、強烈なシュートをゴールネットに突き刺している。事実上、足の振りだけで、あれだけのシュートスピードを出せていたことになる。

 当然、体全体のパワーを完全な形でボールに伝えることができたときのシュートは、ハンパではなかった。一次リーグ日本戦でのジュニーニョ・ペルナンブカーノ(ブラジル)や、3位決定戦でのシュバインシュタイガー(ドイツ)のシュートなどは、まさにその代表例。強烈な無回転シュートに、GKはなす術がなかった。野球に例えるなら、150kmのナックルボール、というところか。キャッチャーが捕ることは、まず不可能だろう。

 以下は、ジュニーニョにゴールを決められた、ブラジル戦直後の川口能活のコメントである。

「あれは完全にブレ球。今の僕の技術では止めることはできない。シュートが来て、(両手を体の右側に持っていき)こうやって構えたんだけど、気がついたら、もうゴールに入っていた。あのシュートは下手に手を出せば、指が折れるかもしれない」

 大空翼のドライブシュートか、日向小次郎のタイガーショットか。まるで、マンガの世界のような話だが、事実、川口だけでなく、世界中にあのシュートを止められるGKはいないだろう。新開発のボールだからこそ生まれた、最終兵器であった。

 その一方で、この「+チームガイスト」は、もうひとつの傾向を生んだ。FKからの直接ゴールという、サッカーの試合における見せ場を著しく減らしたのである。

 この大会では多くの選手が、FKを「曲げて落とす」ことに苦労していた。ボールにしっかりと回転をかけて落とすことを考えると、ボールが上がらない。 ボールを上げようとすると、今度は回転がかからず、ボールが落ちない。結果的に多くのFKは、壁にひっかかるか、ゴールのはるか上を越えていくかのどちらかとなった。

 今大会でのFKらしいFK、つまり壁の上から曲げて落とすようなFKは、決勝トーナメント1回戦エクアドル戦でのベッカム(イングランド)のゴールくらいだろう。ロナウジーニョ(ブラジル)、バラック(ドイツ)、ジダン(フランス)といった高い技術を持つ選手でさえ、ペナルティエリア付近の絶好のFKを生かすことができなかった。それどころか、まともにゴールの枠に飛ばすことさえできなかったのである。

 凹凸を排したボールは足にも空気にもひっかかりが悪く、直線的なシュートではスピードが増すが、回転をかけることは難しい。それが「+チームガイスト」の特徴であり、そのことが、今大会のゴールに特殊な傾向をもたらしたとは言えないだろうか。

 日々進化を遂げる球体は、実は影の主役としてゲームをコントロールしていたのである。

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