| 浅田真樹●取材・文 text by Masaki Asada photo by YUTAKA/アフロスポーツ |
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| 第23号(2006年5月23日) | |
【日本代表】日本代表23名、順当な顔ぶれ〜久保の落選と巻の選出
会見場となったホテルの広間は、200名分以上用意された座席がすべて埋まり、さらに座りきれない記者、カメラマンなどであふれかえっていた。順当な選出が予想された今回に限っては、運命の日、は少々煽りすぎとしても、テレビ各局が発表会見の模様を生中継で伝えるなど、その注目度は相当なものとなった。 さて、その23名の顔ぶれだが、結論からいえば、やはり順当な結果に収まった。それは、ジーコがこの4年間の活動を通じて発信してきたフィロソフィーが、そっくり反映されたものだった。 最大のサプライズとして捉えられた久保竜彦の落選も、現状においては、サプライズというより、至極当然の判断だったといえる。残念ながら、ジーコが復活を期待してやまなかったストライカーも、世界と戦えるだけのコンディションにはなかったのである。 腰痛をはじめ、故障に泣かされた昨季、久保はわずかリーグ戦10試合に出場したにすぎない。天皇杯で復調気配を見せていたものの、ほぼ1年を棒に振ったといってもいい。それでもジーコは、久保のポテンシャルを高く評価していた。だからこそ、別メニュー調整を容認した上で、年明けの日本代表キャンプ にも招集したのである。その時点で、まだまだ本調子にはほど遠い動きだったとしても、仕方のないことだった。 ワールドカップまでには、まだ時間がある。これからコンディションを上げていけばいい。 それでも、誰もがそう好意的に考えていた。だが、Jリーグが開幕して2カ月が経過してもなお、わずかに状態は良くなっていたのかもしれないが、本来の躍動感は、横浜F・マリノスでも、日本代表でも、ついに見ることはできなかった。 ジーコはこれでも久保にこだわるのだろうか。 それが、メンバー発表前のラストマッチ、スコットランド戦を見た後の、私の率直な感想だった。その時点で、オーストラリアとのワールドカップ初戦まで、ちょうど1カ月。この数カ月のコンディションの上昇具合と、現状とを計る限り、残り1カ月でどうにかなるとは、とても思えなかった。こうなると、一昨年のチェコ戦やアイスランド戦で久保が見せた豪快なプレイを期待することは、もはや妄想に近い。 だから、15日のメンバー発表の場で、久保の名前が告げられなかったことは、「えっ」ではなく、「やっぱり」だったのだ。 これまでのジーコの選手起用には、最近の調子よりも、本来のポテンシャルを重視するような考え方があった。だからこそ、それでもジーコは久保を外さないだろう、という気持ちが少なからずあったのは確かだ。その点に関していえば、まったく驚きがなかったわけではない。それでも、スコットランド戦の久保を見て、最終的にジーコが久保落選を決断したことは妥当であり、賢明だった。 ただ、久保落選を当然というか、やむなしと思った私も、その一方で、巻誠一郎の選出に関しては、やはりサプライズの印象が強い。 もともと、私のFW予想は、久保、高原直泰、柳沢敦、大黒将志の4名。久保落選もありうるが、そうなった場合は玉田圭司が繰り上がるのだろうと予想していた。 ところが、会見でジーコが言っていたように、玉田は久保落選による繰り上げではなく、茂庭照幸、松井大輔を退けて、最後の1枠に滑り込んでいた。久保の代役には、あくまでも同じようなタイプ、つまり高さがあって、前線でポストになれるようなタイプを求めていたわけである。 にしても、それが巻だったことは、やはり新鮮な驚きだった。 ジーコが選手選考の基準として挙げていた「勝ち点3がかかった試合での貢献度や生産性」をもとにすれば、むしろ好位置につけていたのは、鈴木隆行だったはずだ。なにしろ巻は、昨年の東アジア選手権が初代表。今年1月の日本代表合宿は、それ以来の招集だったのである もしかすると、世論の後押しが少なからず影響を与えたのかもしれない。いずれにしても、昨年から、久保、玉田、柳沢とケガに悩まされる選手が多く、全体的に順調さを欠いていたFW陣のなかから、Jリーグで結果を残している上り調子の選手が選ばれたことは、ポジティブな印象を与えた。もし佐藤寿人、巻のふたりが揃って落選していたら、ひどく後ろ向きな印象を残していただろう。 カズ落選や俊輔落選がクローズアップされ、やたらとネガティブな印象ばかりを残した過去のメンバー発表と比べ、今回は、久保落選があったにもかかわらず、意外なほどそれが残らないのは、巻の存在があったからだ。 日本にとってはワールドカップ出場も3回目。しかもメンバー予想がなぎ状態だったこともあり、どことなく冷めた雰囲気が漂っていた。それだけに、 決戦ムードを高めたという点でも、巻選出の効果は予想以上に大きかった。世論も総じて、この抜擢を好意的に捉えているようである。 ただし、すべてをポジティブに考えられるのも、ここまでだ。巻はまだ、ワールドカップでの活躍を約束されたわけでも何でもない。 ブルガリア戦の同点ゴールを見る限り、巻はこうした短期決戦を勝ち抜くために必要な、ラッキーボーイ的素質を持っている。淡々ときれいなプレイを続けるうまいだけの選手よりは、ずっと期待感も抱かせる。相手との接触を恐れず体を投げ出す様は、偉大なる先人、中山“ゴン”雅史にも通じる。 だが、それだけで結果が出るほど、勝負の世界は甘くない。巻自身が言うように、持ち味である「泥臭いプレイ」が全面に出ている今はいいが、その裏には、技術的な不安要素があることは否定できない。現在、Jリーグで見る巻のプレイはすばらしいものだ。ところが、国際試合になると、Jリーグと同じようにはボールが収まらない。技術的な粗が目立ってしまうのだ。 やっぱり巻じゃあ、厳しいな。 絶対に1点が欲しい場面に出場してきても、スタンドの期待をそんなため息に変えてしまう可能性だって十分にある。 ここまでのサプライズの主役は、実は巻ではなく、ジーコである。つまり、演出家が人為的に操作できる範囲内のことだったのだ。だが、これから先の真剣勝負は、お手盛りのシンデレラストーリーを簡単に完結させてくれるほど、甘くはない。 恐らくワールドカップ本番では、高原、柳沢の2トップが先発する可能性が高い。と同時に、巻の出場時間はわずかなものになるだろう。どんな試合展開になろうとも、楽な状況で、出番が回ってくることはありえない。巻はこれ以上ないほどの期待――歓声にも、ため息にも変わる可能性がある――を背負って ピッチに立つことになる。 そのときにこそ、本当の意味でサプライズは完結するのである。 |







