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浅田真樹●文 text by Masaki Asada
山添敏央●写真 photo by Toshio Yamazoe
第21号(2006年3月7日)
【日本代表】“黄金の4人”を捨てられないジーコ

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 前言撤回。

 前回の本コラムで、新戦力の意欲的な取り組みや、ジーコのこれまでとは一味違った選手起用などから、日本代表が新たな局面を迎えていると書いた。私自身、そうなってほしいという希望があったから、というだけでなく、実際にそう見えたのだ。だが、どうやらそれも思い過ごしだったようだ。

 ボスニア・ヘルツェゴビナ戦を前にして、ジーコは遠征メンバーと同時に、以下のコメントを発表した。

「アメリカ戦、フィンランド戦、インド戦の3試合、若手が持てる力を十分に発揮し、チャンスを生かし結果を出してくれたと思う。だが、今回メンバーに関しては、本大会までの数少ないFIFA国際Aマッチデーなので、数名を残して行くという選択をした。強化試合として、このチャンスを最大限に生かしたいと思う」

 このコメント、そしてボスニア・ヘルツェコビナ戦でのメンバーから見えてくるのは、インド戦までの3試合は選手選考やチーム作りを行う場ではなく、6月のワールドカップとは完全に切り離されたものだったということだ。君たちはよくやった。だけど今回は、今までの3試合とは違って本当の強化試合なので、関係のない選手は遠慮してください、と。

 ジーコの頭の中では、ワールドカップ本番の登録メンバー23名はほぼ決まっている。ボスニア・ヘルツェゴビナ戦の前日会見では、「本大会前、唯一全員を揃えられる試合」とも漏らした。もはや、そう考えるしかない。ジーコが頭を悩ませているとしたら、DF、MF、FWで各1名、計3名程度の選考についてだけだろう。

 恐らくその枠の中にいる顔ぶれは、おおまかに言えば、昨年のコンフェデレーションズカップ出場メンバー。つまりはアジアカップ優勝メンバーに海外組を加えたものである。つまり、ジーコがよく言う「信頼に値する選手」はもう数年来、変わっていないわけである。

 象徴的だったのは、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦での選手起用。ジーコは「コンフェデでこの4人がよかったので、もう1回見たい」と、中盤には中村俊輔、小笠原満男、中田英寿、福西崇史を先発起用。さらに、「この4人と久保が合うかどうか」と、FWには久保竜彦を先発させた。

 ところが後半に入ると、小笠原を小野伸二、福西を稲本潤一、久保を柳沢敦へと次々交代。ピッチ上に現れた中盤より前の6人は、ジーコが監督に就任した最初の試合(2002年10月16日、対ジャマイカ)と同じ顔ぶれとなった。コンフェデからジャマイカ戦へ。あたかも時間を逆行するような選手起用は、結局、ジーコが“黄金の4人”を捨てきれない証拠だろう。

 あくまで“黄金の4人”にこだわるのか、あるいは、コンフェデのいいイメージを優先するのか。先発メンバーについては、ジーコも一考の余地を残しているだろうが、この思案の舞台に新たな選手(例えば、阿部勇樹や今野泰幸や長谷部誠)が上がる可能性は限りなくゼロに近いことは、これではっきりした。

 こうなると、ヨーロッパ組の出場が難しい3月のエクアドル戦や5月のキリンカップ(2試合)は、ほとんど強化の意味をなさない(最後のアピールの場、などという煽りはあまりに空々しい)。なぜなら、同じメンバーで試合をこなすことによって、チームとして固まっていく、というのが、就任以来一貫したジーコのチーム作りの方針だからだ。この3試合のピッチに立つのは、その場限りのチームなのである。

 つまり、5月中旬から予定されているドイツ合宿が、事実上、今年の本格的な(あくまで、6月のワールドカップに向けてという意味での)強化のスタートということになる。

 これではっきりしたことは、ある程度チーム力の底は見えた、ということだ。確かにこのチームは、早めに集合し、練習に時間をかけたときには結果を出せるという傾向はある。その点でいえば、本大会前に3週間ほどの時間があるのは、間違いなくプラス材料だろう。

 だが、チームとしての継続性がないなかで、個々の感覚を短期間ですり合わせるだけのコンビネーションでは、高が知れている。ジーコ就任以降の約3年半、日本代表は3歩進んで2歩下がる、を繰り返してきた。3歩進んだときに迎えた試合(例えば、コンフェデや、一昨年、2度行なわれたヨーロッパ遠征)はまずまずの内容と結果を残しているが、その後、確実に2歩、あるいは3歩下がるのも毎度のことだ。3年半をトータルで見たとき、いったい何歩前に進んだのだろうか。6月の本番で、この状況が劇的に変わるとは思えない。

 ボスニア・ヘルツェゴビナ戦も、相変わらずの内容だった。

 プレイメイカータイプのMFを揃えた中盤は、パスはつながれど、一向にボールが危険なエリアには入っていかず。FWが引いて受けに来ても、次への狙いを感じさせる動きを見せる選手はいない。何度かサイドから攻め込む場面はあったが、クロスには(出し手も受け手も)相変わらず工夫が見られなかった。相手に見切られた後半は、足元に入るパスをことごとく狙われた。一方的に攻められる時間が続き、相手に与えた決定機は3、4度。もはや、ノックアウト寸前だった。

 確かに、雨交じりの雪が降り、ピッチコンディションは悪かった。加えて、試合前日に初めて全員が集まった“ぶっつけ本番”の試合。にしても、ほとんど変わらぬ顔ぶれで、3年半もやってきたチームなのである。

 対照的に、ボスニア・ヘルツェゴビナはヨーロッパの中堅どころらしい、手堅いチームだった。4−2−3−1のフォーメーションをベースに、守備のバランスを崩さず、ボールを奪い、トップにボールが入ったことを合図に、サイドがしっかりと攻め上がっていく。新しい選手が起用され、ボスニア・ヘルツェゴビナとて、この試合のために多くの時間を割いたわけではないだろうが、全員のプレイに共通のスタンダードが存在していた。

 残念ながら、今の日本代表にはそれがない。特に4−4−2のときには絶望的に。頼みは中村俊輔の左足、という状況だ。

 日本がボスニア・ヘルツェゴビナと戦った翌日、クロアチアはスイスで、アルゼンチンと対戦した。前半こそ、アルゼンチンに両サイドで主導権を握られたが、後半に入ると押し返し、3対2で逆転勝利を収めた。スピード、パワー、テクニックで、日本が前日対戦したボスニア・ヘルツェゴビナを数段上回っている。

 前半のアルゼンチンのように両サイドを押し込む展開を作ることができれば、2トップ+ニコ・クラニチャールは孤立し、攻撃力を半減させられるかもしれない。だが、現在の日本にそれを期待するのは難しい。むしろ、両サイド(特に日本の左サイド)で主導権を握られることを覚悟しなければならない。ボスニア・ヘルツェゴビナ戦での後半のように。当然、クロアチアの攻撃は勢いを増すことになる。

 しかも、日本の硬直化した人選とは対照的に、クロアチアでは20歳のMFモドリッチが初代表でありながら、キレのある動きを見せた。昨年までU−21代表でプレイしていた若き才能に期待する声は、クロアチア国内でも高いという。

 この2日間ではっきりしたのは、クロアチアに対して日本の苦戦は免れられないということだ。そして、両国間の差が今後縮まる材料は……、今のところ見当たらない。

 日本にもメッシがいるなら、話は別だが。

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