Special Contents J FOOTBALL
浅田真樹●文 text by Masaki Asada
梁川剛●写真 photo by Go Yanagawa
第20号(2006年2月24日)
【日本代表】代表生き残りレース〜サブ組の猛追

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 出場機会の少ない(あるいは、ほとんどない)控え選手が、モチベーションをいかに高く維持するか。チームスポーツで勝ち進むためには、非常に重要な要素である。

 しかし、ことはそれほど単純ではない。だから、指揮官はことさらに神経を遣う。

 前日本代表監督のフィリップ・トルシエはレギュラーを定めず、徹底して選手同士を競争させることで、そもそも“控え選手”という概念そのものを排除した。アテネ五輪代表監督の山本昌邦の発想もこれに近かった。

 そしてジーコもまた言う。「サッカーは11人で戦っているのではない。チーム全員で戦うのだ」と。だが、その一方で、「同じメンバーで試合をこなすことによって、コンビネーションは向上する」と、基本的にレギュラーメンバーを固定することでチームを熟成させるという方法を選択してきた。その結果、レギュラー組、サブ組は明確に区分けされた。練習では、サブ組はレギュラー組のスパーリングパートナーに過ぎないことも少なくない。チーム作りの過程は、トルシエのそれとは180度異なる。

 そのためか、練習を見ていても、サブ組からほとばしる意欲を感じることは少ない。一昨年、アジアカップで優勝した際、控え選手がチームを盛り上げ、チーム一丸となった成果であるということが盛んに言われたが、この3年間、常時その状況にあるとはとても思えなかった。チーム作りの手法として、メンバーを固定することのメリットはあるにしても、同時にまた、弊害もあることは否定できない。

 だからこそ、06年初戦となるアメリカ戦(サンフランシスコ)を前に、現地の日本人ユースチームとの間で行なわれた練習試合は新鮮だった。

 45分ハーフで行なわれた試合は、前半はレギュラー組が、後半はサブ組が出場し、14対0で日本代表が勝利した。この点差からも明らかなように、両チームの実力差は歴然。日本代表は90分間、ほぼ一方的に攻め続けた。

 だが、とりわけ気になったのが、後半の試合内容である。

 レギュラー組の前半は、ショートパスを中心にボールは動くものの、足元のパスが多く、つながるパスの数ほどにシュートチャンスまでつながらない。どこか気の抜けたようなプレイも散見され、会場につめかけた現地在住の日本人から失笑が漏れるシーンさえあった。

 それに対し、サブ組の後半は、選手ひとりひとりに意欲が満ち溢れ、それがチームとしての勢い、迫力につながっていた。今回が初代表の長谷部誠は言う。

「やっぱり紅白戦でも練習試合でも、みんなアピールしようっていう気持ちがあるし、モチベーションも高い。そういう雰囲気に乗せられる? そうですね」

 ときには、アピールしようという気持ちが先行しすぎて、個人プレイとのそしりを受けても不思議はないほどだったが、彼らの置かれている状況を考えれば、それは決して不快なものではなかった。

「いいとこ見せなきゃいけないから(笑)」

 さも当然といった様子で、同じく初代表の佐藤寿人は本音を隠そうとしない。誰もが、いいところを見せてやろうとしたのである。

 対戦相手の疲れもあったとはいえ、レギュラー組の前半が4点しか取れなかったのに対し、サブ組の後半は大量10点を奪取。レギュラー組が足元のパスに頼っていたのに比べ、サブ組は両サイドを広く使いながらも、常にDFラインの裏を狙う意図が、パスの受け手にも出し手にも共通して存在していた(この狙いは、これまでの日本代表の攻撃に悲しいくらい欠けていた部分だ)。これが攻撃に迫力を生み、前後半での決定的な違いを生んだ。

 右サイドから縦に突破するだけでなく、中央に切れ込んで左足でシュートを放つなど、プレイの幅の広さを見せ、ライバル加地亮との“差別化”を図ろうとしていた駒野友一は言う。

「シュートを3本打ったんですけど、もう少し枠に入れたかった(苦笑)。自分はサブ組として試合をしていますけど、やっぱりスタメンを目指している。みんながそういう意識でやっているので、こういう試合ができる。今日みたいに一方的な試合であっても、油断せずにやっていることが大量得点につながったんだと思います」

 後半を見終えた後に前半を振り返ると、その緩慢なプレイぶりが、レギュラー組の油断や慢心にさえ思えてくるほどだった(余裕、というには不甲斐なかった)。今にして思えば、アメリカ戦での試合展開は、すでにこの練習試合の段階で予見できたものだったのかもしれない。

 この練習試合の前半メンバーがそのままスタメンで登場したアメリカ戦は、序盤の10分ほどを除き、まともに相手陣内にボールを運ぶことさえままならなかった。アメリカが高い位置から仕掛けてくるプレスになすすべなく、いたずらに足元でショートパスをつないでは簡単に奪われ、ピンチを招いた。

「FWにボールが収まらず、相手にはパスコースを読まれ、インターセプトされていた。体を張れる巻と、相手をかく乱できる佐藤を入れ、これが功を奏した」

 試合後、ジーコがそう振り返ったように、後半頭から投入された巻誠一郎と佐藤の2トップがアグレッシブに動き、互いにスペースを生かし合うことで、少しずつ悪い流れを変えていった。長谷部もまた、持ち味である低い位置からのドリブルで攻め上がりを見せる。これまでどんよりとした曇り空が続いていたサブ組の意識を、新戦力が刺激した。

 アメリカ自体のペースダウンもある。だが攻撃に狙いのある積極性は、明らかに前半にはなかったものだった。前後半でのその変化は2日前の練習試合にも共通するものだった。2点を返したという結果以上に、その内容は評価されていい。

「今まで出ていなかった選手が、絶対に23人に入って、ワールドカップへ行くんだという強い気持ちを見せてくれたことは大きな成果だ」

 これまであまり新戦力の登用に積極的ではなかったジーコも、サブ組の意欲的な姿勢には少なからず心を動かされたようだった。

 続く、帰国後に行なわれたフィンランド戦でも、村井慎二、巻が初めて、従来のレギュラー組に混在する形で先発出場。さらに佐藤、駒野も途中出場した。

「思ったより出場機会をもらえたので驚いた。(初招集が決まったときには)正直、試合の最後に5分とか、10分とかの出場チャンスしかないと思っていたから」

 初めての招集でありながら、アメリカ戦で45分間、フィンランド戦で19分間のプレイ時間を得た佐藤は、そう率直な感想を漏らした。少なくとも、これまでのジーコ采配ではあまり見られなかった現象である。

 ワールドカップイヤーが幕を開け、大会まで残された時間はあとわずか。代表生き残りレースは最終コーナーを回り、最後の直線に入っている。一度は力尽きたかに見えたサブ組。だが、ここにきて、強烈なラストスパートを仕掛けてきた。レギュラー組が油断して流していれば、ゴール前での逆転も今は十分にありうる。

 風雲急を告げる、はいささか大げさとしても、年が明け、日本代表がこれまでとは違う様相を見せていることだけは間違いない。

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