西山和明●撮影 photo by Kazuaki Nishiyama
第35号(2008年5月30日)【プロ野球】「変化」ではなく「進化」〜好調西武の強さの秘訣はここにある
「どこか腑に落ちない」
現在、プロ野球パ・リーグは埼玉西武が首位を独走しているが、この快進撃を連日、球場で取材しながら「何かが引っ掛かる」部分を感じていた。「腑に落ちない」部分は昨年も同等の力を擁しながら、なぜ28年ぶりのBクラスに終わってしまったのか。また昨年と今年は、何がどう違うのかという部分に対し明確な答えが導き出せなかったからなのだ。
今季開幕前、埼玉西武の下馬評は高くなかった。Bクラス評価がその大半を占めていたが、僕が想像していたのは、むしろ逆。
石井一久、岡本真也の加入でこれまで以上に投手陣に厚みを増した埼玉西武が優勝争いに加わらないわけがない。むしろその筆頭だと考えていたくらいで、戦力面で他の5チームに劣るとは思っていなかった。
ただし、その一方で昨年、低迷した要因が取材の中でしっかり導き出せなかったのも事実。今年の快進撃を見て、予測は当たれど、昨年と今年の何が変わったのか。その1点が「引っ掛かり」につながっていた。
開幕間もない3月29日。
福岡ソフトバンクとのデーゲームの試合後、その日のキープレイヤー・大島裕行にコメントをもらおうと僕は西武第2球場に隣接する室内練習所で彼を待った。
試合終了時から軽く3時間が経ち、時計の針は21時を回っていた。
居残り特打ちを終えた大島が出てくると、その練習に付き添っていたデーブ大久保、熊澤とおる両打撃コーチも後を追うように室内練習所から出てきた。こうした光景はこの日に限ったことではない。その翌日、3年目の銀仁朗が朝7時から早朝特打を予定していたが、同コーチはバッティングピッチャー役を買って出て、これに付き添い何百球と放っている。
「僕みたいなレギュラーでもない人間に、毎日こうして朝早くから練習に付き添ってくれる。本当に感謝しています」
まるで、ひとつひとつの言葉を噛み締めるように話した銀仁朗。同コーチが選手ひとりひとりにどれだけの愛情を持って接しているのか、このエピソードからも伝わる。
「やっぱり練習しようと思ったときに、練習出来る環境が四六時中あるのか、ないのかは違いますよ。ましてや傍でコーチがしっかり見ていてくれるわけですからね。この差は大きいです」
そう語るのは今季、2番打者として定着した栗山巧だ。彼に限らず多くの若手野手、そして外国人に至るまでがコーチ陣の日頃の努力によって、不振を脱し再生されていく。選手たちの多くもこれに感謝している。
両打撃コーチの頑張りに、周囲の首脳陣も黙っていない。
「デーブさんみたいな、10年以上もボールを握っていなかった人が肩ヒジをボロボロにしながら一日何百球も投げているんですから、それに比べたら僕なんかまだまだ全然、投げられるじゃないですか。少しでも野手の役に立てるなら全然投げますよ」とは潮崎哲也投手コーチだ。同コーチ以外でも小野和義投手コーチ、時には渡辺久信監督が自らバッティングピッチャーを買って出ることもある。
「監督も僕も昨年はファームで同じようなことをやっていました。人手不足のファームではそれが当たり前というか、互いに助け合いながらチームを動かしている。それがチームのいい雰囲気につながっているかもしれないですね」(潮崎)
このアットホームな手作り感がチーム内の雰囲気をよくし、選手の力を120%発揮させている。
5月28日現在、西武のチーム本塁打数は73本。もちろんこれはリーグトップの成績で次点の福岡ソフトバンクの43本を大きく上回っている。こうした選手達の能力が発揮できている陰には、昨年までの伊東体制で培われてきた基礎が大きく関わっている。栗山はこう語る。
「打席での考え方とかはデーブさんから聞いて『こういう考え方もあるんだ』って気づいたこともたくさんありますが、基本的に言っていることは昨年まで指導してくださった土井(正博)さんや立花(義家)さんと変わらない。僕的には昨年までに教わったことと、今年教わったことの両方をミックスさせてバッティングに生かしていますし、走塁に関してもそこは大きいですね」
今季ここまで(5月28日現在)、栗山はリーグ2位の11盗塁を決めている。昨年のシーズン成績が8盗塁だったことを考えれば、この数字は飛躍的な伸びである。さらに栗山は続ける。
「基本的にはノーサインで『行けるときは行け』とベンチから言われています。盗塁が増えているのはそれも大きいと思いますが、それだけじゃなく昨年まで苫篠(誠治)さんや清水(雅治)さんが口酸っぱく言って反復練習したことが今、やっぱり生きているんですよね。だから塁に出ても自然と体が動くんです」
現在の好調の秘訣には西武黄金期から脈々と受け継がれている基礎が根底にある。渡辺新体制はそれをうまく引き出す役目をしているようだ。
「昨年と今年で何が違うとかはありません。いつも打席には同じような気持ちで入っていますし、試合でも特別なことをしようとせずに、一定のことをしようと心がけています。でも同じことをするのが一番難しいですけどね」
開幕から好調な西武打線の象徴ともいうべき中島裕之は、このように語る。
我々はすぐに「変化」を求めたがってしまう。しかし、現場で起きているのは「変化」ではなく「進化」。彼達がここまで培ってきたことが結果として現われているに過ぎない。だからこそ、現在の好調ぶりを僕は「勢い」ではないと考えたい。むしろ「熟成」したというべきか。
2004年の日本一から4年。「ヤングレオ」は「百獣の王」へ進化した。渡辺監督が就任時に掲げた「黄金期の復活」はすぐ近いところまでやってきているようだ。








