Special Contents BASEBALL

田尻賢誉●文 text by Masataka Tajiri
大友良行●撮影 photo by Yoshiyuki Ootomo

第31号(2007年11月20日)【高校野球】センバツのために必要なこと〜第38回明治神宮野球大会・高校の部総括

――順当勝ち

そういっても差し支えないだろう。それほど、優勝した常葉菊川は走攻守に安定していた。準決勝、決勝で3本塁打を記録したパワーは全国ナンバーワン。その証拠に、夏以降の公式戦でスタメン9人中8人が本塁打を放っている。

投手は昨年のエース・田中健二朗のフォームを踏襲する左腕・戸狩聡希が先輩同様の制球力を披露。左右にぶれないフォームのため、制球もつけやすく2試合17イニングで与えた四死球は決勝の9回2死から力んで許したひとつだけ。準決勝では同じフォームの右腕・萩原大起も1四球1死球で完投と変わらない制球力を見せた。守備も決勝で二塁ベース寄りのゴロを逆シングルで好捕、さらにバックトスで併殺を完成させたセカンド・町田友潤、1年生ながら前任の石岡諒哉並みの強肩を持つ栩木雅暢(とちぎ・まさのぶ)、準決勝で右翼後方の大飛球を背走し候補したライト・中川雅也など内外野とも粒揃いだ。

さらに、旧チームから全国屈指だった走塁は新チームでも健在。今大会では得意の三塁走者の“内野ゴロ、ゴー”こそなかったが、二塁から安打1本で還る走塁、一塁から安打で三塁を奪う走塁、投手のワンバウンド投球で二塁、三塁を奪う走塁など、次の塁を狙う姿勢は出場校の中でも飛びぬけていた。初戦の東洋大姫路戦では投手の戸狩が三塁からセカンドフライでタッチアップして生還している。

参考までに、二塁から安打で本塁を狙ったタイム(バットにボールが当たってから二塁走者が本塁を踏むまで)は以下の通り。

酒井6.55(対横浜、8回2死満塁、右前打で生還)
伊藤6.81(対横浜、4回1死二塁、左前打で生還)
酒井6.91(対東洋大姫路、6回無死二塁、左前打で生還)
前田7.32(対東洋大姫路、1回2死一、二塁、右前打で憤死)
栩木7.39(対東洋大姫路、9回無死一、二塁、右前打で生還)

他チームでは明豊の河野凌太が下関商戦で記録した7.06が最高。6秒を切ったのは常葉菊川の選手だけだった。一歩目のスタート、コース取りのよさが際立っていた。

決勝で常葉菊川に敗れた横浜も、全国屈指のチーム力。こちらも2006年のセンバツ優勝投手、川角謙そっくりのフォームから投げ込む左腕・土屋健二が安定。今大会では登板がなかったが、中学時代に全日本に選ばれた186センチの大型右腕・田山豊も控える。

神奈川県大会前、小倉清一郎部長が「打てなくて困ってるよ」とこぼしていた打撃こそ例年より劣るが、それでも準決勝、決勝で2試合連続本塁打を放った小川健太、1年春から四番に座った大器・筒香嘉智、決勝の9回に意地の3ランをかっ飛ばした土屋のクリーンアップは強力。1年からレギュラーで経験豊富な松本幸一郎が一番打者として引っ張り、核は揃っている。来春も常葉菊川とともに大会をリードする存在なのは間違いない。

課題は、技術ばかりに頼らずできるかどうかだけ。決勝戦で決勝点を与えたのは、8回裏2死満塁からライト前安打で、三塁を狙った一塁走者を刺そうとした小川健の送球をサード・筒香が逸らしたプレイ。送球が走者に当たったため、筒香は責められないが、そのあとがいけなかった。当然、カバーに走っていなければいけないレフト・岩間理樹がバックアップに来ておらず、ボールは転々。防げる点数をやってしまったことが命取りになった。戦力は全国屈指。全力疾走やカバーリングなど、技術とは関係のないプレイができるかどうかが、頂点に立てるかどうかを左右する。

今大会は開幕前の予想通り、2強の力が抜けていた。大会屈指の強打線が光った明豊は走塁への興味が感じられず、投手力にも不安を残した。明徳義塾も馬渕史郎監督自ら「見るからに貧相でしょう」と苦笑いするように、打線が迫力不足。エースも左腕の軟投派の南野悠介と全体的に小粒で例年ほどの強さはない。

横浜に健闘した東北はエース・萩野裕輔、四番・宮下英彦など好素材が揃うが、プレイが雑で守備力に不安。来年のドラフト1巡目候補の144キロ右腕・佐藤翔太を擁する東洋大姫路は正捕手が不祥事のため不在というのを割り引いても、近畿王者として物足りなかった。関東一、下関商、長野日大、駒大岩見沢も力不足。今大会だけでなく、各地区大会や都道府県大会を見ても、例年より全体的なレベルが低く感じられた。

逆にいえば、来春のセンバツは2強以外にも、どこが上位進出してもおかしくないともいえる。自分たちの力を把握し、できることをしっかりやる。その上で、勢いにも乗ることができれば今夏の佐賀北旋風の再現も期待できる。済美を破り、明徳とも好勝負を演じて四国大会で準優勝した小松島、06年夏に初出場で4強入りした鹿児島工など、公立校の活躍に期待したい。


sportiva present 詳細はコチラ≫
sportiva 本誌アンケート こちらから応募できます
S-men's.net(sportiva)webメンバー募集中! 会員特典多数!!
mobile sportiva モバイルサイトも更新中!URLをメールで送信>>>
contact us 読者係:03-3230-7755 編集部:03-3230-6058
年間定期購読 お申し込みオンラインサービス

Sportiva 本誌
定価580円 毎月25日発売
今月の特集

黄金世代
世界を驚かせた18人の今

  • 黄金世代は何をもたらしたのか?
  • 小野伸二
    「もう一度、アフリカのピッチで…」
  • 柳沢敦が語る“シンジと黄金世代”
    「伸二からのパスは
    スバ抜けて優しかった」
  • ワールドユース99選手名鑑
  • 高原直泰
    「不敗神話を持つエースの10年」
  • 小笠原満男
    「もう第3の男とは呼ばせない」
  • 遠藤保仁
    「オレらの世代が
    やらないといかんやろ」
  • 稲本潤一&中田浩二
    「オレが欧州で戦ってきた理由」
  • 黄金世代 最強伝説
    「伝説は94年に始まっていた」
  • ドキュメント・ワールドユース99
  • オレとワールドユース99
    播戸竜二、酒井友之、
    永井雄一郎、南雄太、
    加地亮、本山雅志
  • ワールドユース99
    アフリカ事件簿
  • あの黄金世代たちは今……
    榎本達也、石川竜也、
    高田保則、氏家英行
  • フィリップ・トルシエ
    「彼らは抜群の世代だった。
    “黄金”かどうかは別にして……」
  • 検証・世界の黄金世代
    「日本を破ったスペイン
    “黄金世代”は
    なぜ消えたのか!?」
  • 岡田ジャパンは本当に
    南アに行けるのか!?
  • 江夏豊の夢野球紀行
    「四国・九州アイランドリーグ編」
  • ストイコビッチを
    日本代表監督に!
    1.欧州ジャーナリストほかが語る
    「ピクシーの変身」
    2.識者が解剖
    「ピクシーの手腕」
    3.藤田俊哉
    「代表監督にはカリスマ性が必要だ」
    4.グランパス主力選手アンケート
  • クリスティアーノ・ロナウド大研究
  • 西川周作
    「北京でまた
    ひと回り大きくなりたい」
  • スラムダンク奨学金2期生
    谷口大智&早川ジミー
本誌冒頭記事紹介