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市川 忍●文 text by Shinobu Ichikawa
アフロ●撮影 photo by AFLO

第25号(2007年3月14日)西武・新エースの最有力候補、涌井秀章

海を渡った松坂大輔の動向が連日、テレビやスポーツ誌をにぎわせている。一方で、3月24日のパ・リーグ開幕を控えた日本のプロ野球において、ペナントレースの行方とともに注目を集めているのはその大黒柱、松坂を失った西武ライオンズの戦いぶりではないだろうか。

そこで、エースの最有力候補として期待を寄せられているのが入団3年目、20歳の涌井秀章である。荒木大輔ピッチングコーチは言う。

「松坂の抜けた穴は投手陣全員でカバーしていかなければならないと覚悟していますが、中でも涌井に対する期待は大きいですね。最も信頼できるのは実績のある西口(文也)だが、若い涌井が西口を脅かすような存在にならなければ今シーズンのうちは苦しいでしょう」

昨年のシーズン開幕前、涌井は横浜高校の先輩である松坂からこうアドバイスを受けた。

「あまり飛ばしすぎると去年みたいなことになるぞ」

涌井はルーキーだった05年、開幕から先発ローテーション入りを果たしたものの疲労から失速し、最後は1勝6敗という不本意な成績に終わった。高校からプロ入りした涌井にとって、中6日で130試合以上を戦うペナントレースは未知の世界。1試合、1イニングにガムシャラに立ち向かううち、スタミナ切れを起こしたのである。

「松坂さんからは『打順や相手バッターの力、試合の流れを読んで投球内容を工夫しろ』というようなアドバイスをもらいました。疲れを感じ始めた夏場ごろからは、松坂さんの言葉を意識して投げるようになりましたね」

先輩の言葉を実践した結果、昨年はシーズンを通じて安定した投球内容をみせ、松坂に次ぐチーム2番目の勝ち星(12勝)を挙げた。

松坂は戦況を読むことに長けた投手だった。決して手を抜くわけではないが、9番打者と4番打者では明らかに投球内容を変えて挑む。どの打者を抑えれば相手チームに与えるダメージが最も大きいか。ここが勝機だと判断した重要な場面では、その試合で最も高い集中力を発揮した。その「ペース配分の巧さ」が1シーズン、フルで活躍し13完投という結果を残せた最大の要因だった。

今季、涌井に求められるのは、この「形勢を読む力」だろう。投球のリズムや、それによって試合全体に与える影響を意識し「無駄なボールを減らしたい」と、投球の幅を広げるために新たな球種にも挑戦している。昨年はフォークを、今年のキャンプからはシュートを試したが「フォークに関しては低めにきているので、打者に意識させるという点では有効に使える」とキャッチャーの細川亨の評価も上々だ。

もちろん、25試合に先発し、17勝を挙げたエースの穴は簡単に埋まるものではない。何より完投能力のあるピッチャーを失ったことで、先発だけではなく、中継ぎ投手陣にかかる負担も大きいはずである。荒木ピッチングコーチは言う。

「オープン戦はまだフォームを固めている最中なので、涌井本人は内容に不満を抱いているかもしれません。昨年までの彼だったら自分で調子の良し悪しを判断してしまい、悪いとなると我慢しきれず自ら崩れる試合もあった。でも今は、なんとかピッチングをまとめて、試合を作ろうという粘り強さがある。精神力をコントロールできるようになったのは大きな成長だと思いますね」

オープン戦では2試合に登板、8イニングを投げて未だ自責点はない(3月13日現在)。ライオンズの新エースに最も近い20歳。涌井の活躍に注目したい。


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