| 上田 龍●文 text by Ryo Ueda photo by Reuters/AFLO |
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| 第23号(2006年12月26日) | |
日本人メジャーリーガー誕生を増幅させる理由
さらに、松坂と同じく、パ・リーグからアメリカへと新天地を求めた野茂英雄、長谷川滋利、イチロー、田口壮、松井稼頭央、井口資仁、城島健司といったスタープレイヤーたちの活躍や発言、動向を伝える映像や活字を、ファンがいつごろから日常的に目にするようになったかを思い起こせば、それは間違いなく彼らがメジャーに活躍の場を移してからである。 「球界の盟主」読売ジャイアンツ出身の松井秀喜でさえ、MVP、本塁打王、打点王各3回、首位打者1回の実力にふさわしい扱いをメディアから受けてきたのか、実際には疑わしい。日本でプレイした10シーズンで、彼は通算332本塁打(97年からの7シーズンに限れば、年平均39.9本)を、超人的な飛距離で外野スタンドに叩き込んだが、地上波テレビでもっとも多く放送されるジャイアンツの生中継ですら、放送開始はプレイボールから1時間も経過してから。試合途中での打ち切りも当たり前だったから、視聴者が目にすることができたゴジラのホームランは、おそらく332本のうち3分の2程度に過ぎないだろう。 野茂英雄がドジャースのユニフォームに袖を通した1995年以降、日本のプロ野球でスタープレイヤーとしての地位を確立した選手たちが、メジャーリーグを新たな野球人生の舞台として選んだ最大の理由は、ベースボールのレベルの高さや年俸を含めた条件の良さだっただろう。それと同時に、プロ野球選手を取り囲む経営者、監督・コーチ、球場、メディア、ファンといった「環境の差」、もっとハッキリ言ってしまえば、プレイヤーに対する「リスペクト(敬意・尊敬)」の違いも大きな動機だったはずだ。 選手が球団にとって「商品」であることは、メジャーも日本のプロ野球も同様だ。しかし、少なくともレギュラーやスターとして実績を残し、今後も活躍が期待できる選手に対する扱いには雲泥の差がある。先日、ジャイアンツから横浜ベイスターズにトレードされた仁志敏久のケースは、まさに選手に対するリスペクトの欠如を象徴する出来事だった。 昨年オフに原辰徳監督の復帰が決まった時点で、以前の任期中も相性の悪さが取りざたされた仁志は、本人のためにも移籍させるべき選手だった。実際、フロントは仁志が原監督に重用されないことを見越して、小坂誠、さらには木村拓也まで獲得し、案の定、仁志は故障もあって出場機会が激減して、成績も大幅に落とした。もし、仁志が昨年のオフか、遅くとも2006年のトレード期限までに他球団に移籍していれば、移籍後の契約更改で1億円もの大幅減俸を飲まされることはなかったかもしれない。 これと対照的だったのが、ヤンキースでライトのポジションを失った、通算455本塁打、1501打点の強打者ゲイリー・シェフィールドのタイガースへのトレードだった。選手の平均年俸が270万ドル(日本円約3億円)を超えたメジャーリーグでは、いわゆる「金満球団」と呼ばれるヤンキースでも、「余剰戦力」を抱えることはまずありえないし、ましてシェフィールドのような知名度と実力を兼ね備えた大選手ならなおさら、他球団から有望な若手選手を獲得する際の「切り札」として活用できるのである。 また、メジャーリーグの協約には、同一球団の傘下マイナー組織に一定期間在籍し、メジャーに昇格できない選手を他球団が指名獲得できる「ルール5ドラフト」の制度も設けられている。獲得球団はそのプレイヤーをメジャー出場枠の25名に入れることが義務づけられて、放出、獲得した双方のチームが飼い殺しをできないシステムになっている。 選手の健康よりも興行(しかも野球以外の)を優先した人工芝、密閉型ドーム球場の横行、選手を対等な労使交渉の相手と認めない経営者、野球界とテレビ局の「共同作業」でコンテンツとしての価値が著しく下落した地上波テレビの野球中継、まともな公式ウェブサイトも作れず、お粗末なキャラクター商品しか売ることができない商標権ビジネスの未成熟、選手やファンの利益そっちのけで縄張り争いを続けているプロ・アマ球界の関係……。残念ながら、スタープレイヤーたちのメジャー志向を思いとどまらせ、この国のプロ野球で選手生活を続行させることは、むしろ選手やファンの利益や幸福、さらにはベースボールの普及・発展を真剣に考えれば考えるほど、それに反する行為だといわざるを得ない。少なくとも、フィールドで躍動する姿を見る機会が今よりも増えるのであれば、ファンはスタープレイヤーたちに、むしろメジャーへの移籍を望まざるを得ないのである。 |







