| 谷上史朗●文 text by Shiro Tanigami 小内慎司●撮影 photo by Shinji Koushi |
|
| 第20号(2006年9月29日) | |
【高校野球】運命の高校生ドラフト〜さまざまな人間模様の交錯
そもそも1993年に逆指名制度が導入されて以降、改正されるごとにドラフトはいびつになり、球団による選手の偏りや「これが?」と思う選手の1位指名も増えた。加えて昨年から実施の分離ドラフトでますます指名順位の重みは失われ、選手の真の実力が見えにくくなっている。現行の制度は「暫定2年」のため、ひとまず今年限りということだが、この先どうなっていくのか。 とはいっても、さまざまな人間模様が凝縮されているのがドラフト。今年の結果を振り返れば、やはりソフトバンクと相思相愛で入団確実と見られていた大嶺祐太(八重山商工、写真上)を、前田健太(PL学園)、増渕竜義(鷲宮)らの指名が噂されていたロッテが指名したことが、一番の“波乱”だった。昨年もロッテはドラフト直前になりバレンタイン監督による熱望で急遽、青森山田の柳田将利を1位指名した経緯があり、その際「2巡目でも獲れる」と主張した編成部との間でひと揉めあったという話も聞いた。今回もおそらくバレンタイン監督の意向を受けての強行指名だったのだろうが、どの球団にも指名のチャンスが平等に与えられるのが高校生ドラフト。大嶺の力を最上位に評価していたのであれば、攻めの姿勢自体は評価したい。ただ、それにより、大嶺の運命がどう転ぶのか。「一浪」などという選択ではなく“憧れの世界”と言うならプロへ飛び込んでほしいが、何より周囲の大人たちの冷静な判断を望みたい。 大嶺を奪われたことで、今度はソフトバンクが外れ1位でロッテがリストアップしていた福田秀平(多摩大聖ヶ丘)を指名。ソフトバンク関係者は否定したが、周囲からは「報復」の声が漏れたという。その一方で、バレンタイン監督は「福田は4巡目で予定していた。それより佐藤(2巡目指名・横浜)を獲られるのがイヤだった」と、意に介せずのコメント。第三者とすれば、ドラフトの醍醐味を味わう攻防となったが、それにより運命が大きく変わったのが福田。事前に調査書の届いていたロッテ、日ハム、阪神、横浜の中から「3、4巡目での指名があれば……」と考えていたと言うのだから、それは驚いただろう。が、こちらは喜んで「運命のいたずら」に乗った。 阪神、巨人、中日とセの3球団が競合した堂上直倫は中日が引き当てた。父、兄に続く中日入りに祝福ムード一杯の感じだったが、本人にとってこの結果はどうだったのだろう。最も馴染み深い球団には違いないが、父や兄らと関係のない世界でやってみたいという思いも本音の部分ではあったのではないか。特に小学校のころから「あとを追いかけてきた」という兄・剛裕は同じ野手(現在はファースト、サードなど)。ファームで年々力はつけているがプロ生活3年を終えた兄の立場を思えば、この先、弟として複雑な心境にさせられる局面もあるかもしれない。ただ、外見はソフトに見えて、非常に芯の強さを感じさせるのが堂上でもある。そのあたりの“気持ち”の部分もうまくクリアして、プロの世界でも大いに暴れてくれると期待する。 堂上の指名に関しては、巨人についても一言触れたい。この夏以降、「ウチに必要なのは若手の野手」と、昨年から徹底マークの田中将大(写真下)から堂上へアッサリ乗り換え、その結果の「外れ」でますます迷走ぶりが際立った。チームに「若手野手が必要」なことは、前々からわかっていたことで、そんな根本的なところへドラフト直前に立ち返るとは……。もちろん、この夏、完調ではなかった田中のピッチングが路線変更へ踏み切らせたことはあったとしてもビジョンが曖昧すぎる。チーム作りの根幹を担うスカウティングへの考え方を改めないと、安定した戦いも望めない。 その田中の周辺でも運命は彷徨った。日本ハム、楽天、オリックス、横浜での競合となり、楽天が交渉権を獲得したのは承知の通りだが、抽選のシーンを見ていた人なら一瞬「オリックス入り」と思ったのではないか。僕はこのシーンを前田の取材で訪れていたPL学園で見ていたが、やはりそう思った。というのも、横浜、楽天、オリックス、日ハムの順にクジを引き、一斉に開封。ところが各球団の代表者がノーリアクションの中、オリックスの小泉隆司社長だけが開封に手間取り、まだ2つ折の用紙を開けられずにいたからだ。そこですっかりその手に「当たり」が握られていると思った。ところが、ようやく開けた小泉もノーリアクション。「?」と妙な間が空いたあと、4球団の代表は揃って確認役のNPB関係者の元へ用紙を持って歩み寄り、ようやく楽天の「当たり」が判明した。楽天の島田亨社長が「確定」の印を見て、喜ぶなり、手を挙げるなりしていればスンナリ事は流れたのだが……。ともあれ、一連の動きを表情ひとつ変えずモニターで見ていた田中の頭にも、一瞬「オリックス」の名が浮かんだはず。それを本人がどう感じたかはわからないが、多少なりとも心はざわついたのではないか。これもまた小さな「運命のいたずら」だ。 それにしてもオリックスも、昨年の辻内指名の際に中村監督が「当たり」と勘違いし「ぬか喜び」。そして今年は社長のモタモタでまたしても「ぬか喜び」。何とも締まらない結末とツキのなさを2年続きで露呈した格好だ。 このほかにも、わずか2時間足らずの中でさまざまな運命が交錯したことだろう。特に大嶺のようなケースが生まれると、あとには必ず「高校生にも逆指名権を……」という声が聞こえてくる。しかし、夢の世界から“選ばれた者”には、運命へ立ち向かっていくくらいの気概、運命を楽しむくらいの大らかさを持って、プロの世界へ飛び込んでいってほしい。その点でも「12球団OK」の姿勢で「運命の日」へ臨み、そこで出た結果もスンナリ受け入れた田中や堂上らのこれからには大いに期待したくなる。 |








