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佐々木 亨●取材・文 text by Toru Sasaki
日刊スポーツ●写真 photo by Nikkan sports
第18号(2006年6月20日)
【大学野球】雑草軍団・大阪体育大学が初優勝〜大学野球選手権

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 勝負事は厳しく、そして難しい。大一番でのこの展開を、果たしてどれだけの人が予想し得ただろうか。結果はともかく、両校の指揮官にとっては良くも悪くも想定外の展開だったに違いない。55回目を迎えた全日本大学野球選手権大会決勝は、史上7度目の連覇に挑む青学大と、初の決勝進出を果たした大阪体育大との対戦となった。

 絶対的なエース・高市俊(4年)を筆頭に、円谷英俊、大崎雄太朗、横川史学(ともに4年)、小窪哲也(3年)といった経験豊かな実力者をそろえる青学大。2日間の雨天順延もあり、体力面、精神面ともに余裕を持って戦いに臨めたことや、優勝候補と目されていた法大が準々決勝で、近大が準決勝で次々と姿を消したこと。さらに、昨年の同大会で中心選手だった円谷を欠く中、チームがひとつにまとまり頂点を極めたことを踏まえ、戦力的には大きな痛手ではあったが、今大会も準々決勝の名城大戦で小窪が死球によって骨折するアクシデントが起こり、選手の士気が一層高まったことなどなど……。過去4度出場した大学選手権はすべて優勝と、不敗神話を誇っていた青学大が持つ不思議な力とも言うべきか、すべてのことが優勝へつながる追い風になっているように思えた。

 一方、阪神大学野球連盟に所属し、巨人・上原浩治の母校としても知られる大体大。優勝回数27回(リーグトップ)を誇るチームではあるが、グラウンドは提携高校の大商大浪商との兼用で、平日の全体練習は1時間足らずと野球部を取り巻く環境は厳しい。そんな状況下にもかかわらず、今大会は1回戦で浅井学園大を2−1、その後は東海大、近大と強豪校を次々に撃破し、あれよ、あれよという間に決勝進出を果たしたのであった。

 常勝軍団vs雑草軍団。

 対照的なチーム同士の決勝を前に、総合的な力関係、互いが持つ“勝つ要素”を比較すれば「青学大優勢」の声が多かったのは当然のことだったと言えるだろう。だが……。いざ蓋を開けてみると、試合は思わぬ展開となった。

 1回表、青学大は1番・大崎、3番・円谷のヒットで一死一、三塁の好機をつかむ。だがこの場面、果敢に円谷が盗塁を試みるも、大体大の捕手・庄司龍二(2年)の強肩に阻まれ、二死となってしまう。試合後、青学大の河原井正雄監督が「あれだけ肩が強いキャッチャーとは思わなかった」と振り返ったように、ここで青学大にとってはひとつ目の誤算が生じた。結局先取点を奪えなかったことが、後の展開に大きく影響することになる。

 そんな中、先に流れをつかんだのは大体大だった。3回裏に1番・松尾和行(4年)の中前ヒットで先制すると、4回裏には一死満塁で7番・庄司が左中間へ走者一掃のタイムリー二塁打を放つなど一挙に4点。中盤までに5−0とリードを奪う。「本来なら、ああいう場面(満塁)こそ抑えるのが高市」とは河原井監督。これが、ふたつ目の誤算だった。普段の試合からは想像し難いエースの姿がそこにはあった。一方、大体大の先発・村木健介(4年)は6回まで無失点と粘りの投球を続けていた。大体大にとっては、右上手投げの村田透(3年)への継投のタイミングを模索していた中で、村木の好投はうれしい誤算だったと言えるだろう。

 終盤に2点差とされた大体大だったが、8回裏、それまで2安打と気を吐いていた庄司がダメ押しとなる2ラン本塁打を放ち、マウンド上の高市の表情を凍りつかせた。「歩かせよう」そう思いながらも決断を躊躇した河原井監督は、「すべて私の采配ミス。全体を通しても防げる失点はあった。大いに悔いの残る試合だった」と、試合後はただただ悔しさを滲ませるばかりだった。9回表二死から驚異的な粘りを見せる青学大に1点差にまで詰め寄られた大体大だったが、最後は二番手の村田が締めて7−6で勝利。全国26リーグ、367大学の頂点に立った。

 試合後の優勝インタビュー。大体大の中野和彦監督は目頭を真っ赤に染めながら選手たちを労った。

「涙が止まりません。すべてを任せていた選手たちがよくやってくれた。本当に下手クソなチームで、当初はリーグ内でも勝てるかわからない状態だったのに……。全国大会で試合を重ねるごとに強くなっていきました。すごく不思議なチームですよ」

 大体大に「優勝するだけの力があった」と言ってしまえばそれまでだが、両校に生じた誤算が実力差を埋め、さらに不確定要素の“勢い”という、トーナメントにおいては最大にして最高の力が後押ししたことにより、予想以上の成果を得られたのではないだろうか。

 03年の日本文理大の優勝を筆頭に、04年の八戸大、05、06年の創価大の4強進出など、昨今の地方大学の躍進は目を見張るものがある。今や、伝統ある校名だけでは勝てない、逆に地方大学にしてみれば「名前負けしない」という傾向が見られる。九州東海大との開幕戦に登場した東北学院大の岸孝之(4年)は7回4失点で初戦敗退に終わったが、11三振を奪い、自己最速の151キロをマークするなど、潜在能力の高さを証明してみせた。名城大の清水昭信(4年)もまた、1回戦の京都学園大戦で最速147キロのストレートとスライダーを駆使し、毎回の15奪三振で1失点完投。プロのスカウトに強烈なインパクトを与えた。彼らのような隠れた逸材の大舞台での活躍、そして大体大の優勝で、今後さらに地方への目は広がりを見せていくことだろう。

 非情なもので、勝負の世界には白か黒しか存在しない。つまり、必ず勝者と敗者に分けられる。だが、たとえ勝敗がどうであれ、どちらの立場であろうとも戦いの中で得る財産は必ずひとつやふたつあるものだ。勝って得た自信もそう、負けて得た悔しさや、そこから見えた課題もそうだろう。すべては、その後のチームの血となり、肉となっていく。今回出場したすべての大学が、さらに成長した姿で秋の神宮へ戻ってくることを願う。

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