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松瀬学●取材・文 text by Manabu Matsuse
photo by Getty Images/AFLO
第15号(2006年3月13日)
【WBC】惨敗、WBCの中国棒球団。でも有信心!

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 花冷えである。花粉症である。悪夢である。不覚にも涙腺が緩むのだ。

 発展途上の若手チームとはいえ、ここまで弱いとは。野球の『ワールド・ベースボール・クラシック』(以下、WBC)のアジアラウンドに出場した中国棒球団のことである。

 3試合とも惨敗した。いずれも2桁失点だった。最後の会見で、ジム・ラフィーバー監督の顔も赤色の帽子と区別がつかないほど、落胆と怒りで真っ赤だった。

「貴重な経験を積むことができたけれど、ちっとも楽しい大会じゃなかった。学ぶべきことが山ほどみつかった。選手層の厚さを作っていかないといけない」

 そりゃ、最初から中国の予選落ちはわかっていた。だって、プロ選手の実力のバロメーターはゼニである。

 中国代表は全員、中国リーグのチームに所属している。このリーグは北京五輪の開催が決まった翌年02年にスタートしたばかりで、ほとんどの選手の月収が3万円前後だから、年俸にすると30万円となる。WBC参加30人トータルにしても、せいぜい1千万円といったところである。

 かたやイチローの昨年の推定年俸が1250万ドル(約14億円)だから、中国のチーム全体でイチローの100分の1にも到底、届かないということだ。

 むろん、中国選手は安月給でもやる気は満々だった。1カ月間にもおよぶ米国アリゾナでの強化合宿を終え、チームコンディションも悪くはなかった。

 大会前の会見で、主将の張玉峰(写真)は言ったものだ。「イチローと一緒に試合ができるなんて、夢のようだ。いつか実力も人気も、日本のようになりたい。どこまで通用するか、自分たちの可能性を示したい」と。

 ちょうど中国勢が大活躍したトリノ五輪の直後だったこともある。「ずっとテレビで応援していた」という張玉峰は、フィギュアスケートの荒川静香の演技曲、『トゥーランドット』をハミングしたりしていた。

 ついでにいえば、このオペラは中国の王女・トゥーランドット姫の物語である。

 ま、それはともかく、中国選手は乗っていたのだ。イチローを擁する王ジャパンにも、張玉峰は「勝つ自信がある」と豪語していた。が、現実は厳しかったのだ。

 日本戦には、28歳の李晨浩が先発し、4回までは2失点と踏ん張っていた。球速は130キロそこそこながら、丁寧な投球でコースをついていた。その裏、なんと、主砲の王偉が百戦錬磨の上原からライトスタンドへ、2ランをかっ飛ばした。同点である。

 王偉といえば、昨夏に来日した際の巨人2軍戦の前に、けがで調整中の番長清原からバットをプレゼントされた。以来、安月給に関係なく、黙々と練習に打ち込んできた。

 一途な性格と普段の努力を知っているから、こちらもうれしかった。試合後「オメデト」と言うと、27歳の王偉ははにかんだ。「尊敬するウエハラさんからホームランが打てるとは思わなかった。北京オリンピックに向け、大きな自信になります」

 ただ中国の健闘もここまでだった。5回。西岡、福留に連続ホームランを浴び、4点を失った。その後も長打攻勢に失点を重ね、終わってみれば、2−18の8回コールドゲームである。

 韓国、台湾戦も似たような展開だった。序盤は拮抗しながらも、後半にはぼろぼろになる。3番手以降の投手が極端に落ちるのだ。

 ひとり65球までしか投げられない理不尽な特別ルールは、選手層の薄い中国にはつらいものがあった。つい、ぼやきたくなる。「えいっ。もう変装して投げんかい」と。

 投手力、攻撃力のひ弱さもだが、対応力が足りない。例えば、「中国のイチロー」ともてはやされている1番センターの孫嶺峰にしても、変化球にはまったく対応できていない。

 野球の理解度も低い。走塁も連係プレーも雑である。経験の差ということだろう。野球が文化として根付いている日韓とは、普及の度合いに天と地ほどの違いがあるのだ。

 他競技からの転向者が多く、その競技でトップになれない選手が移ってくる。つまり、野球界は「潜在力がありそうな失敗者」の集まりなのだった。

 歴史も実力もないゆえ、中国国内の人気もさっぱりだ。東京ドームのスタンドのファンの少なさはともかく、北京の友によると、「WBCのメディア露出はゼロに近い」とか。

 ただ中国は挙国体制で強化するゆえ、代表中心のスケジュールが組める。北京五輪に向け、国のサポートは拡充されていく。このあと中国リーグを経て、夏には日本で1カ月の強化ツアーを実施するプランである。

 ラフィーバー監督は最後に宣言した。「この大会の敗戦が中国野球の幕開けとなる」。会見場を出る際、こちらの肩をぽんぽんと叩くのだった。“ま、2年後を楽しみにしておきなさい”と言わんばかりに。

 選手たちもまた、落ち込んではいなかった。「どうだったか」と問えば、主将の張玉峰は笑って自分の胸を指差すのだった。「有信心!」と。ハートは熱いぞ、闘争心に火がついた、との意である。

 この屈辱と悔恨を次にどう生かすか。チームをどう構築し、北京五輪でどう戦うかは、『時間』との勝負となる。

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